茨城におけるものづくり企業経営史(3)

質問者:日立以外との取引に関してはいかがですか。

 

高橋:795月に油圧専門メーカーの油研工業と取引を開始しました。油研の本社は神奈川県にありますが,戦時中に茨城県の大子,袋田の滝の近くに疎開した工場が今もあり,そこと取引をしています。さらに同年9月には富山県の不二越と取引を開始しました。

 

質問者:その後,90年代に入ってから取引関係を拡大していったようにみえますが。

 

高橋:はい。我社の特徴の1つですが,バブルが崩壊した後にむしろ取引が拡大し,成長が始まったといえます。日本のバブルが崩壊したのは89年の終わりです。バブル崩壊後の時期にあたりますが,我社は,91年に兵庫県明石にある川崎重工業油圧事業部と,続いて92年には小松製作所(現コマツ)と取引を開始しました。小松製作所では川崎工場で油圧機器を作っていたのですが,91年に川崎工場から栃木県の小山工場に移転されましたのが取引の契機です。

 

高橋:こうした取引の拡大とともに工場を増設してゆきました。スプールという油圧ショベルを動かす時にコントロールするバルブがあります。油圧ショベルでは、この部品を平均9本使います。93年にはこのスプールを加工する専用工場をこの地(茨城)に完成しました。また96年には部品の組立工場を完成し、バルブAssy製品の納入を開始しました。さらに97年には熱処理工場を完成させ、熱処理工程を内製化しました。

 

質問者:Assyとはassembleと同じ意味ですか。

 

高橋:同じ意味です。アッセンブルと言うと長いので,我々はAを大文字にしてAssyを小文字にした略語を使います。

 

高橋:続いて2000年以降ではISOの認証取得に取組みました。ISOというのは主にヨーロッパの品質に関する規格で,ヨーロッパに輸出する時にはこの規格を取得していないと輸出できないので,我社のお客様もISOの認証を取得し,我々に対しても取得の働きかけがあったので、2000年にISO9001の認証を取得しました。それから2001年には東芝機械,現在は分社化してハイエストコーポレーションとなっていますが、同社の相模原にある油圧機器事業部と取引を開始しました。またこの年の10月に,キャタピラー三菱(現在キャタピラージャパン)とも取引を始めました。ただキャタピラー社とはまだそれほど大きな取引をしていません。2004年には三菱重工業相模原製作所とも取引を開始しました。

 

質問者:2004年以降になると,ポンプAssy製品の納入が開始されますね。

 

高橋:はい。この年にハイエストコーポレーションへ,初めて油圧ポンプのAssy製品を納入しました。油圧には3要素があります。このうち(1)ポンプというのは,油の圧力を発生する文字通り心臓です。モバイル(移動体)ではエンジンにポンプを取り付け,エンジンを回転させることによって圧力を発生させます。(2)発生した圧力をコントロールする―例えば一定の圧力にコントロールするとして,油圧ショベルの場合だと1平方センチメートル当たり350キロの圧力が加わりますが―その圧力をコントロールする。さらに方向もコントロールする。この方向や圧力をコントロールするのをバルブといいます。そして(3)アクチュエーターというものがありまして,実際に油圧を発生させて,直進運動をさせるのをシリンダーと云い、回転運動をさせるのが油圧モーターと云います。油圧モーターは油圧ポンプとほぼ原理が一緒ですが,ポンプはエンジンを回して圧力を発生させる。モーターは逆で,こちらから油を送り込むと回転し始めます。油の量を多くすると回転が速くなる。逆に少なくすると回転が遅くなります。従って無段変速が可能となります。

 

質問者:つまり油の量で回転をコントロールするわけですか。

 

高橋:そうです。圧力は一定ですから変わりません。そうするとこれは無断変速になるわけです。いちいちギアチェンジをしません。そういうものがポンプとバルブとアクチュエーターで,これが油圧の3要素です。その場合,我社はシリンダーの製造には手を出さない方針できました。これは大体6割くらいが材料費で付加価値が少ないためです。そこで我社は,当初,ポンプやバルブの部品製造を専門にやっていました。しかし,それだけでは企業規模を大きくすることが出来ません。そこで,OEM商品(相手先ブランドによる製造)のポンプやバルブを作ることにしました。まず2004年に東芝機械のポンプをOEMで受注することができ,その後,コマツからも注文を受けることができました。

 

高橋:そして2006年に熱処理工程を協立熱処理工業として分社化し,独立させました。分社することで,我社のみでなく外部の仕事も受注できるようにと考えたからです。この周辺ですと日立市や水戸市の仕事を取るようにしています。熱処理というのは,大学の理工学部や工学部系でも学科があるところはあまりありません。私が知っているのは東海大ぐらいです。また油圧の研究室を持っているところも少なくて,日本の大学では東工大にはありますが,この辺では栃木の足利工業大学が研究室を持っているくらいです。

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